遺族補償一時金(労災保険)申請代行の事例


日本で勤務されていた方が急性心筋梗塞で亡くなられ、そのご遺族から労災申請について相談を受けました。

ご遺族としては、故人が過度な業務により過労死したと考えておられました。しかし、ご遺族は全員韓国在住であり、会社側は労災申請に協力してくれない状況でした。そのため、私に代わりに申請をしてほしいという依頼でした。

急性心筋梗塞という死因が、過重労働によるものだと主張するためには、まず 「死亡と業務に関連性がある」 ことを示す必要があります。そのために最優先で必要となるのが、故人の 労働時間を立証すること でした。

しかし、会社が協力してくれない状況では、適切に管理された労働時間記録を入手することはできません。そこで、故人が会社代表とやり取りしていた業務連絡の履歴をもとに、推定労働時間表 を作成しました。

そのように整理した結果、 月80〜100時間程度の時間外労働 を行っていたと集計されました。

月80〜100時間の時間外労働は、労災(過労死)として認定されるための重要な基準に該当します。

書類を準備する過程では、ご遺族の方々にこまめに連絡を取り、現在の状況を随時ご報告しました。

労災申請の管轄である労働基準監督署を訪問し、担当者と面談を行いました。

担当者によれば、私が提出した資料を見る限り、状況的には労災として認められる可能性があるとのことでした。しかし、会社が本来記載すべき部分を記載しないまま申請書を提出しているため、その理由を説明する「理由書」を添付してほしいとの指示がありました。

本来、労災請求では「どの会社で、どのような業務に従事していたか」が非常に重要であり、会社側が申請書に記載すべき項目がいくつか存在します。

さらに、扶養関係の証明がなければ遺族年金としての支給はできず、一時金での支給となること、そして一般的に「親」が遺族の場合は一時金支給になることが多い、という説明も受けました。

監督署訪問後、修正・追加作成した書類についてご遺族の確認を得て、正式に申請を提出しました。

提出時には、 「担当者の選任まで約1週間ほどかかり、その後会社への実態調査や、ご遺族代表への確認調査を行う。日本語での対応が難しいとのことなので、あなた(私)を経由して書面で確認する予定」 との案内を受けました。

また、結論が出るまで通常は 6か月程度かかるが、今回の事案はそれ以上かかる可能性があるとのことでした。

前述のとおり、労災申請書類を労働基準監督署に提出してから約1週間後、担当者から電話がありました。

担当者は、 「本来は遺族と直接面談して状況を把握する必要があるが、言語的な制約があるため、今回は書面で進めたい」 と説明しました。

まず、ご遺族向けのアンケートのような書類を私宛に送るので、

  • 私が内容を翻訳してご遺族に伝える
  • ご遺族が回答したものを私が受け取り、監督署へ提出する という流れになるとのことでした。

担当者は、 「回答内容は機械翻訳(Google翻訳など)でも確認するが、可能であれば重要な部分だけでも日本語に訳してほしい」 と依頼してきましたので、できる限り協力することにしました。

さらに2週間が経過した頃、 申立書などの提出依頼が届きました。

日本にいるわけでもないご遺族に対して、 「2週間以内に提出してください」と案内してくるとは…… かなりタイトなスケジュールではありますが、 こちらとしても従うしかありません。

2週間ほど経った頃、申立書などの提出依頼が届きました。

内容としては、

  • 労災該当者の平常時の健康状態
  • 労災発生時の状況 などを記載する書類と、 病院・健康保険・消防署に対する 事実照会への同意書 でした。

ご遺族は韓国にお住まいなので、 パパゴなどの翻訳アプリで内容を確認することは可能ですが、 重要な部分については私が翻訳を付けてお送りしました。

基本的な記載はご遺族が行うものですが、 書類作成には不安が伴うため、 電話で簡単に相談しながら記載内容を確認しました。

1週間も経たないうちに、ご遺族が作成した書類が届きました。 韓国語で記載された部分については、私が日本語訳を作成して添付し、 労働基準監督署へ返送しました。

返送には監督署から送られてきた返信用封筒を使用したため費用はかかりませんでしたが、 最近、郵便物が途中で紛失する事例が時々あるように感じており、 この書類がきちんと届くか心配になりました。 そのため、1週間後に担当者へ電話し、無事到着していることを確認しました。 (重要書類は、費用がかかってもレターパックで送る方が安心だと感じます。)

さらに約2か月が経過した頃、労働基準監督署の担当者から電話がありました。

会社に事実確認を依頼したところ、 「特に過重労働に該当するような内容はなかった」 という趣旨の回答があったとのことでした。

しかし、会社の回答は私が提出した推定労働時間と異なるため、 私が算定した労働時間の根拠資料を提出してほしい という要請を受けました。

そこで、労働時間の推定に使用した

  • 会社代表との業務連絡の原文とその翻訳
  • 知人との連絡履歴の原文と翻訳 (ただし、プライバシー保護のため、出退勤に関する記述以外は黒塗り) を提出しました。

書類を提出してから待つ時間が2か月、3か月と過ぎていくと、 どうしても焦りやもどかしさが募ってきます。

いろいろと調べてみると、 労災認定を受けることが決して容易ではないことを改めて痛感しました。

下のグラフが示すように、 年間約1,000件の過労死(脳・心臓疾患)申請のうち、 認定されるのは約200件、つまり 4分の1程度 に過ぎないからです。

労災申請の準備を始めてから約2か月、申請を提出してからは約7か月が経過し、 いつの間にか故人の命日から1周忌まで残り1か月という時期になりました。

この頃に監督署へ電話で問い合わせたところ、 「近いうちに結論を出す予定です」 との回答がありました。

その後さらに3週間ほどが過ぎ、 一周忌まで残り1週間というタイミングで、 監督署からご遺族へ結果を送付したとの連絡がありました。

なお、労災認定の結果は原則として社会保険労務士には通知されないため、 私はただ不安な気持ちで結果を待つしかありませんでした。 (今思えば、結果通知を私にも送付してもらうための「特別委任状」を提出しておけばよかったと感じています。)

そして……結果が届きました。

不安な気持ちが、ある意味で予感だったのかもしれません。 通知内容は 「不支給決定」 でした。

この1年間―― ご遺族のお話を伺い、故人の記録を読み込み、 約1,000ページに及ぶ資料を作成し、 労働基準監督署に何度も足を運び、 複数回の書類のやり取りを重ねてきました。

しかし、届いた通知書に記載されていた内容は、 あまりにも特筆すべき点のない、簡素なものでした。 その書類を見ながら、 故人の死が労災として認められなかった理由を考えてみても、 ただ虚しさだけが残る結果通知でした。

まずは判断理由を確認する必要があったため、 労働基準監督署に問い合わせ、以下の点を確認しました。

  1. ご遺族が提出した労働時間は参考にしたが、会社へ訪問し実際の労働時間を確認した。
  2. 出勤記録は存在したものの、退勤記録がなかったため、 会社の同僚など関係者への面談を通じて事実確認を行い、 認定する労働時間を決定した。
  3. 具体的な認定労働時間は公開できないが、 最大の残業時間は月約60時間程度と判断した。 (ご遺族の主張では最大月約100時間の残業であり、 約40〜45時間分は認定されなかったことになる。)
  4. 認定された労働時間では基準に達しないため、 業務起因性が認められず、不支給決定となった。

ご遺族にとっては非常につらい状況ですが、 私は次の点をお伝えしなければなりませんでした。

  • 不支給決定に納得できない場合、3か月以内に「審査請求」により異議申立てが可能。 ただし、審査請求は本質的に認められる可能性が非常に低い。
  • その後は「再審査請求」や「不服訴訟」まで検討する必要があるが、 今回までとは異なる 新たな特別の事情 が立証されなければ、 労災として認められる可能性はほとんど上がらない。

一般論として、これまで提出した資料以外に補強できる資料を追加提出したり、 監督官の判断に誤りがあることを立証できなければ、 審査請求を行っても意味のある結果につながりません。

未提出の資料を分析して、追加で提出できる有益な情報があるか確認することや、 労災認定判断に関する資料の開示請求を行い(申請から開示まで1か月以上かかる)、 その内容を分析することなどが考えられますが、 いずれも多くの時間と労力を必要とします。

結果として、ご遺族の方々は 審査請求を行わない という決断をされました。

どのような決断であっても、私はその選択を尊重する立場であり、 今回の申請が良い結果につながらなかったことは、 長く心に残る出来事になるだろうと思います。

今回の事案を公開することは、 営業的には決してプラスではないかもしれません。

しかし、

  • 労災が発生しても会社が全く協力してくれないケースが現実に存在すること
  • ご遺族と社会保険労務士がどれほど努力して申請しても、 労災認定を得ることが極めて難しい現実 を伝えるために、あえて公開することにしました。

日本で就職を考えている方には、 劣悪な環境の企業に就職することが 生死に関わる問題 になり得ること、 そして、もし亡くなったとしても 何の補償も受けられない可能性が非常に高い という事実を、 ご遺族に深い苦痛を残す現実として受け止めていただきたい―― これは、故人が残した「血で書かれた記録」だと強く申し上げたいのです。

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